「葉隠武士道」の紹介 -日本歴史の国際環境と葉隠
1.日本歴史と国際社会とのかかわり
1) はじめに
 ここでは、「日本歴史の国際環境と葉隠」という副題をつけました。この「日本歴史の国際環境」という言葉は、故西島定生先生の書かれた本に同名のものがあるわけです(東大出版会)。その本には、主として中国によるわが国への冊封(さくほう。さっぽうともいう)を中心として、日本と外国との関係が書かれています。
 まず、中国という国は皇帝の国です。それが日本に対して「お前を王にしてやる」という。これが冊封です。冊とは、その勅書のことです。つまり皇帝というのが一番偉いわけで、家来は一ランク下った「王様」に封ぜられるわけです。
 私はこの視点が葉隠を理解する上でも極めて大事ではないかと思っています。特に葉隠の最初の方に出てくる「上方風の打上がりたる武道」という他の武士道即ち 2の徳川武士道への非難の真の意味を知るには。
 というのは、冊封されるということはその国がより中国的な文化に染まることになるし、冊封されないということはその反対になる。それによって、特にそのことが日本の法制度にいろいろな影響を及ぼしてくる。そして法律には強制力があり、統治の道具ですから、その強制力の根拠を司る武士の理念が、冊封などをテーマとする外国との交渉との関係でどういうふうに変わっていったかという方向からこの日本という国の基軸を見ていくのが、極めて大切なことではないか。特に武士道というものが、近世では政治の基本を構成している面も強いので「打上がりたる武士道」との関係もそうした観点からみていく必要があるのではないか。そんなふうに考えるわけです。
 そこで、日本歴史と国際社会との関わりを冊封を基本にして最初に概観してみたいと思います。